駄菓子屋六十五年の薄暗がりは昭和の匂いでできている。店前にはビー玉とベーゴマが並べられ、
真ん中に狭い通路。その右側に置かれているのはくじびき景品付き駄菓子などでニッキのジュースが
今なお並び、左にはガンダムとゼロ戦のプラモがごちゃごちゃと重ねてあった。
2023/05/24 畑三四郎
スミと結婚すると言い出したのはちょうどその頃である。付き合った連中が悪かったのか、
そもそもませたガキだったのか。戦時中はもちろん男女席を同じゅうせず。
それが打って変り、キスシーンが売りのアメリカ映画に毒されて、
子供のころからいっしょに育った近所のスミに狙いを定めたとしても、致し方無かったのかも知れない。
実は、スミのほうもまんざらではなかったらしい。十歳の時に寂れた神社で二人っきりになって以来の、
ほのかな思慕があったというのだから分からないものである。
いずれにしろ二人は若すぎた。邦男の父母に大反対されて、怒った彼は、
その時から十八になるまで家出して、行方不明となった。
2023/05/25 畑三四郎
再び、今の邦男は家を飛び出し、スミの駄菓子屋を目指していた。
窮地に陥ると、笑ってごまかすのは十の時から世間の荒波を渡ってきた習いだ。
木立の影が被さる駄菓子屋の入り口をニカニカしながら入るや否や、邦男はサラッとたずねた。
邦男の脳裏にはまざまざと六十五年前のスミがよみがえっていた。
スミが嫁に来てくれるとうなずいたときのあの静かな目だ
2023/05/27 畑三四郎
とたん、辺りが隅々まではっきり見えるのに気がついた。普通の朝ではないのだ。邦
男はやっと、情景の異常さに気づき、上空をキッと見上げた。
光に染まった大きな円盤が空を覆っていた
2023/05/28 畑三四郎